2014年8月18日月曜日

『拡張するファッション』展


現在は香川県のMIMOCA 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で巡回中の『拡張するファッション』展。
少し日が経ってしまったけど、最初に開催された茨城県、水戸芸術館のクロージングに行ってきた。



この水戸芸術館は背の高い木々に囲まれた場所にあり、森閑の中でも活き活きとしたエネルギーも感じさせられる場所だった。この日は展示にも参加しているCOSMIC WONDERが、以前にNYでも実施したプレゼンテーション、"Cosmic Wonder Restaurant"も行われるという事で、敷地内の芝生では既に準備の様子が窺えた。

まずはオランダのアーティスト、パスカル・ガテン。エントランスに入ると、緩やかなカーブを描く大きな白い壁に紙や布がカラフルに貼られていた。そこには紙や布以外の日々の細やかな物達も飾られていたけど、全体を眺めてまるで服のパターン図のようだな、と思った。そう見えるのにも関わらず、紙に書かれた言葉やくり抜かれた生地達はひどくエモーショナルで大胆で、従来のパターンにある無機質さは一切排されているようにも思えた。この作業を経て作られた、カラフルなお洋服を着用している水戸芸術館の監視員さん達の誇らしげな笑顔からも、このワークショップの意義を感じる事ができた。

その先にあるのがホンマタカシさんの写真による展示。ここには90年代から現在に至るまでのおおむねが展示されていて、すごく時の流れを感じる事ができるのだけれど、それと同時に「90年代」と総括されてしまうあの時代のクリエーションの細やかな機微や動きも、写真を通して思い起こす事ができた。すごく膨大な時代背景の情報が詰め込まれていると思う。次は、初期『Purple』、『here and there』、Nievesのインディぺントな出版物が並ぶ通路へ。形状や厚みなどは様々だったけど、それらが綺麗に並べられた様子は壮観だった。個々の題材は本当に幅も広くて「着る事」には一見遠いようにも見えるけど、名もなき人の作品も含めて自分のやりたかった事の原点は確かにここだと思った。

ミランダ・ジュライも同じ通路でのインスタレーション。映像作品<アトランタ>は見ているうちに、どんどん心許なくなっていく心地がしたけど、結局立ち止まって何度も見てしまった。ここからは「ガーリームーブメント再考」のセクションに入るのだが、繰り返し見ているうちに、もし自分が今多感な時期だったなら?という想像が頭の中を駆け巡っていた。色んな人が参加して作られた<Leaning to Love You More>の展示も、1人1人と会話してるように眺めて楽しむ事ができた。次は、抽象と具象を行き来するような青木遼子さんの展示。自由な曲線のドローイングと、幾何学の線。朗らかな発想と気ままさで作られた、子どもたちが作ったようなクリエーション。複雑に混じり合っていて温かみのある色達は、暮らしにある繊細なやりとりから生まれる色なのだと思う。一方で同じような着想からの視点に置いても、長島友里枝さんの作品達はしなやかでも、殺伐とした空気も孕んでいるように感じた。子どもを産むと女性の生活は意図せずとも、良くも悪くも大きく変わってしまう。でも長島さんと被写体との距離感や、淡々としたドライさがとても好きだ。女性が持つ特有の知覚の転換は本当に興味深い。

続いては、表現の枠を取り外したようなスーザン・チャンチオロの世界へ。
彼女の作品は、服も絵もとにかく何もかもがカラフルで多くの色を多用しているのにいつも純然としている。私の粗末な言葉ではとても形容できないけれど、建物に収まりきれない溢れ出るような彼女のインスピレーションの一部に一瞬触れれたような貴重な体験だった。BLESS/小金沢健人さんの空間は、天井から連なったチェーンにプロダクトが繋がれていた。無骨に見えたチェーンのカーテンは、触れると反して流麗な音を鳴らした。照明も薄暗く落とされていて、少し和の情緒も感じた。BLESSの女の子の鞄のおそらく連合いを個人的に知っていたので、ここにあるプロダクトの活用方法についてしばらく監視員さんと話の花を咲かせた。

そのままアトリエを模したような横尾香央留さんのお直し部屋へ。廻る、という事象はファッションについて不可欠な事のように感じるけれど、古い物を新しい物へ、という発想は元々日本にも土着としてあった事のようにも思う。実際にここでお直しされたお洋服は、その持ち主の元へ帰って行ったそうだ。

神田恵介×浅田政志<卒業写真の宿題>は教室、机、制服、という少女の象徴めいた物に囲まれていた。可能な限り、個人の実録に沿って完成させられたものらしいが、私にはこれが真の「ガーリー」の定義に当てはまるんじゃないだろうか、と思った。写真や映像の中の、女の子達のキラキラを引き出す事に、本当に成功していたと思う。館内最後の展示は試着体験型のジャングルジム<From On Words>。ここだけが唯一撮影が許可されていて、色々自由に、本当にただ純粋に楽しく着用させてもらった。私は個人的に古着特有の風合いが大好きなので、元々の服が持つ記憶や、エピソードを拝見できたのもとても嬉しい体験だった。





途中までしか見る事が叶わなかったが、自然本来の身体に優しい料理を、参加者が持参したものとトレードする<Cosmic Wonder Restaurant>は人間本来の暮らしの形でもある様に思うし、装う事にも通じていると感じた。これからも、これはずっと課題になる事だと思うけど、この日は晴天快晴の空に従って、芝生に寝っ転がって、二胡やオーケストラルなどの演奏を気持ちよく満喫した。

2011年に刊行された『拡張するファッション』は、極めてドキュメンタリーでなお且つ、とても丁寧に綴り纏められた貴重な一冊だ。この本に特化されている90年代のクリエーションに大きく感化された自分にとっても人生の一冊、とも言えるのだけれど、この展覧会はその本が標した道筋のずっと先にあるインターセクションのような場所だった。もちろん展示を通して、色々顧みる場面も沢山あったけど、それは思春期とは似ていて異なる感情だったように思う。表現しがたい事を表現し続ける事、に勇気を持って良いのだと、ひどく初初しくも開放的で清々しい気持ちになれた。

総じてここに展示されているアーティストやクリエーションは、一概に「ファッション」と一括りに出来ない曖昧さも抱えながら、それでもフィジカルに機能して、着る人や見る人のそれぞれの心や感受性に溶け込んで寄りそっている気がした。私達にとって「着る事」は極めてプリミティブな行為だけれど、日々の歩みの証しでもあるような気がする。

そしてまた今展示されているMIMOCAでは、更に新しい展開が繰り広げられている事が林 央子さんご本人のジャーナルによってアップされていて、更にワクワクとした気持ちとともに、そちらにもチャンスがあれば足を運びたいと考えている。
やっぱりファッションは楽しい。



「拡張するファッション」

会期)2014年6月14日ー9月23日
開館時間)10:00-18:00
◎丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
香川県丸亀市浜町80-1

*)詳細は美術館のHPで確認してください。

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